緊縛してお仕置きをする話

 

 ヘルメッポがふと目が覚めると、手足を拘束されていた。
 そう書くと随分と大層なように見えるだろうが、別に海賊どもに捕縛されているわけではない。本部の自室の柔らかいベッドの上で、手足を拘束されて寝かされていた。
 しかし手と足はしっかりとした縄で括り付けられており、逃げ出せないようにベッドの角に繋がれている。唯一縄が切れる愛刀は手元にはおいていないし、そもそもベッドから抜け出すことすらままならない。時刻をちらりと見るとまだ真夜中のようだ。
 ヘルメッポはもう一度目を閉じ、昨晩のことを思い出そうとする。ええと、昨日は任務終わりに酒に付き合わされて、それで……。そこまで考えて、ある一つの結論にたどり着く。
 そうか、酒を飲みすぎてしまったのか。そしてふざけて、手足を縛ったんだな。悪ふざけはほどほどにしろよ、と考えて、はあとため息をつく。まあそんなわけはない。論理が破綻している。
 そうなると思い当たる節はそうそうない。もともと自分には酔っぱらってこんな悪ふざけをする癖はない。大体自室で、こんなことしてもなんにもならん。と、そこまで考えたところで、ヘルメッポはなにか大切なものを忘れている気がした。
 なんだったろう、とまた目を閉じて思案する。もしかしたら自分は、酔っ払っている間にとんでもないことをしでかしてしまったのか、と思うと全身が総毛立った。
 それならば納得がいく。しかし納得はいくが、本当だったらえらいこっちゃだ。中将の拳骨だけでは済まないかも知れない。懲罰どころか、海兵自体を辞めさせられてしまうかもしれない。それだけは嫌だ。
 ヘルメッポは弾かれたように飛び起きると、手足をばたつかせて縄から逃れようとした。しかしいくらもがいたところで、ベッドが軋むだけだった。
 これはもう本当にまずいぞとヘルメッポが思い始めたところで、部屋のドアが静かに開いた。
 思わずヘルメッポが仰ぎ見ると、コビーが立っていた。
「目ェ、覚めた?」
「……コビー」
 こんな真夜中に、勝手におれの部屋に入ってどうしたんだ―――と尋ねる前に、ヘルメッポはコビーの表情を見て、思わず口をつぐんだ。
 眉を顰めて、明らかに怒っている。明らかにむくれた頬を露わにしながら、じっとこちらを睨んでいる。普段は温厚なコビーがここまで怒るのは久しぶりだ。
 わけもわからぬままヘルメッポが足をじたばたさせていると、コビーはそのままベッドの上に跨り―――ヘルメッポの身体の上に横柄に座り込んだ。
「おい、おれの上に座るな」
 ヘルメッポがそう抗議するが、コビーはツンとした顔のまま表情を崩さない。
「え? これくらい許してよ。ヘルメッポさん、自分が何をしでかしたかわかってる?」
「……」
 そう言われて思わず押し黙る。わけがわからないと言っていたが、コビーの様子から概ね察することは出来る。おそらくだが二人でようやく会える日を設けたのに、自分が酒を飲みすぎてしまいそのまま寝落ちてしまった、といった所だろうか。
 ヘルメッポはおずおずと話を切り出した。
「……わ、悪かったよ。せっかくお前と……し、シようとしてたのにこんな時間になっちまって」
 コビーはむくれ顔のままじとりとヘルメッポを見下ろしている。酒くらいで、と一瞬思う気持ちもあったのだが、愛する恋人を怒らせてしまったのは事実であり、ヘルメッポは罪悪感とともに素直に申し訳ないという気持ちが湧いて出てきた。
「酒控えるからさァ、この縄、外してくれよ」
 そう言いながら身体を左右に揺すっていたが、コビーは微動だにせずヘルメッポを見下ろすばかりだ。
「それは、できない」
「ハァ!? 何で」
「……ヘルメッポさん」
 そう呟くとごろんとヘルメッポの身体を仰向けにさせ、腹の上に跨った。そしてコビーはヘルメッポの目を真っ直ぐ見据えながら、改めて口を開く。
「今から、お仕置き……しようと思います」
 お仕置き、という言葉よりも、その改まった言い方にヘルメッポはおかしくて思わず笑みをこぼす。
「なんだよ、その言い方ッ」
「いや、前は急にやったら怒られたし……それでチャラにしてあげるので、いいですか?」
 コビーは焦りつつも至って真面目な口調でヘルメッポに尋ねた。
 前、というのは、以前にもコビーはお仕置きと称してヘルメッポにあれやそれやを仕掛けてきたのだが、唐突だったためか普通に怒られてしまったのだ。その時に約束していたのが「ちゃんと事前に合意を取る」ということだった。
 つまり今、ヘルメッポはコビーにお仕置きをされてもいいかどうかを尋ねられているのである。変な話だが、これが二人で決めた約束事だ。
 まさかそれが、今、この場で適用されるとは思っても見なかったのだが。ヘルメッポは少しだけ考えるようにして、目の前のコビーを見上げて言った。
「……ああ、わーったよ。それで許してくれンなら、いくらでも」
 そう言いながら腹の上に跨るコビーの顔を見ると、相変わらずむくれているようにしか見えないが、その頬は少し上気して赤くなっている。そんな顔も愛しくて、愛らしい。その視線はどこか熱っぽく、ヘルメッポの身体を舐めるように見つめている。
 コビーのこういう表情をするときは大抵、興奮している時だというのはヘルメッポも知っていた。
 しかしお仕置きとは一体なんだろう、とヘルメッポが考えているうちに、コビーの手が伸びて来てヘルメッポのシャツを捲り上げた。そのまま腹から胸にかけてをゆっくりと撫でられる感触に、ヘルメッポは思わず身体が震える。たくし上げられたシャツを手で押さえようにも、拘束されているのでそれも叶わない。
 そのまま外気に晒された腹を、ゆっくりとなぞられていく。仕置きとは名ばかりの、柔らかいフェザータッチに、ヘルメッポは思わずくすぐったくて身を捩る。
「随分と軽い仕置きじゃねェか」
 ヘルメッポがそう呟くと、コビーは少しだけムッとした表情を見せた。
 そしてそのままヘルメッポの腹の上に顔を近付かせ、その腹筋に舌を這わせる。ぬるりとした感触が身体を這う感覚に、ヘルメッポは思わず息を飲む。しかしコビーはお構いなしに、そのまま舌を滑らせていく。
 まるで犬か猫にでも舐められているような感触で、ヘルメッポは思わず笑いそうになるが、コビーは真剣そのものといった表情でそれを続けている。その真剣な様も、やっぱりちょっと可笑しい。
「……へへ、何だよ。まだ足りねえぞ、コビー」
 煽るように呼びかけると、コビーは頬を染めたまま顔を上げた。
「まだ、酔いが覚めてないみたいですね」
 そう言うと、コビーはヘルメッポのズボンに手を掛ける。そのまま下着ごとずり下ろしていくと、すっかり勃ち上がった性器が顔を出した。
 その先端に軽く口付けると、コビーはそのまま舌を這わせ始める。
「これでも?」
「んん……っ、あ」
 ヘルメッポは思わず身を捩るが、コビーはお構いなしといった様子でそれを口に含んだ。生々しい水音が鼓膜を刺激し、粘液が絡みつく感覚にヘルメッポの腰が震える。
 しかし喉奥までは含まず、舌先で弄ぶかのように転がされる様はいつもとは明らかに違う。普段のコビーは到底しないような、イクかイかないかの瀬戸際を彷徨わせるような舌の動き。そのもどかしさが逆に興奮を煽り立て、ヘルメッポの息が上がってくる。
 そのうち徐に咥内から吐き出され、少しだけ安心したのもつかの間―――。
「せっかくだし、もっと酷いことしても、いいかな?」
 コビーはそう言うと、頭に巻いていた布をしゅるりと外した。
「ん……っ、勝手にしろ……っ」
 半分不安、半分何かを期待するような態度でヘルメッポがそう答えると、コビーはトレードマークである花柄の布を手に取りながらにこりと笑った。
「じゃあ、これ」
「ふぇっ……!?」
 ヘルメッポが思わず間の抜けた声を出す。コビーはそんな様子も気にせずに、その布でヘルメッポの視界を塞いだ。
 すっかり視界が塞がれた状態で、コビーの手が身体を這っていく感触だけが伝わってくる。外そうにも手足はやはり動かない。コビーの手はやがてヘルメッポの腰から太腿へ、そして再び性器へと戻っていく。少し硬い指先が敏感な部分にあたるたびにぞくぞくとした快感が背筋を震わせるが、そんな生易しい愛撫では物足りず、思わず腰が動いてしまう。
 しかしコビーはその反応を楽しむかのように、指先で撫でるだけの行為を繰り返している。
「やだっ……あ……、見えない、の……嫌だァ……」
 そう言って頭を振りながらヘルメッポが訴えるが、コビーは構わず行為を進めていく。
 陰茎の先端から先走りの液が溢れ、それを指先で絡め取られる。そのぬるりとした感触に辛抱たまらなくなるが、行為を辞める気配はない。
 そうしてそのまま指先を秘部へと滑らせていく。
 いったいどこから、何をされるのかすらわからなかったヘルメッポは、思わずガクンと腰を跳ねさせた。
「んぁっ……!! ぁ……はあっ……!!」
 コビーの指先が、ヘルメッポの秘部をゆっくりとなぞる。そして指の先端が中へと侵入してくる感覚に、思わず身体が仰け反った。くちゅくちゅと音を立てて中をかき回される感触に、ヘルメッポは快楽の渦に巻き込まれていく。コビーの手を掴みたいがそれも叶わないまま、されるがままになってしまっている。
「んぅ……やだぁ……っ! これ、外してぇ……!!」
 そう言いながらもすっかり勃ちあがっているそれをもう一方の手で掴まれ、ナカと外からの刺激に一層高い声を上げてしまう。
 視界が遮られているせいか、いつもより感覚が鋭い。いつも以上に感じてしまう自分の身体が恥ずかしかったし、何よりコビーの顔が見られないのも不安だった。恥ずかしくて悔しくて、思わずじわりと涙が零れたことに気がついたのかコビーは行為を止め、徐に耳元に顔を寄せて囁いた。
「もうちょっと……可愛く懇願してくれたら、外してあげる」
 吐息交じりの声に、ヘルメッポはビクリと身体を震わせる。その反応を見てコビーは満足げに笑うと、再びヘルメッポの秘部を愛撫し始めた。
「んなっ……!!」
 思わず抗議の声を上げようとしたヘルメッポだったが、それよりも先にコビーの指がヘルメッポの中のしこりを掠めた。その刺激に思わず声を上げてしまいそうになるのを堪えつつ、ヘルメッポは勘弁したかのように口を開いた。
「コビ……ぃ……、た、たのむからぁ……! お前の顔、見たい……、ん……おねがぁい」
 羞恥で顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。そんなヘルメッポの頬を、コビーはそっと撫でた。コビーはようやく目隠しを取り外して、そのまま唇を重ねる。最初は啄むような軽いものだったのだが、やがてどちらからともなく舌を絡ませ始める。唾液を交換し合うような深い口付けに、脳髄まで溶けてしまいそうだった。

 すっかり惚けてしまったヘルメッポの縄を外してあげると、手足にはすっかり縄の跡が赤く残ってしまっていた。
 またまたやりすぎちゃったかな、とコビーが申し訳なさそうにその痕を優しく撫でる。しかし、当の本人のヘルメッポは、精根尽き果てつつもどこか満足そうな表情でコビーを見上げていた。
 後片付けか放置プレイ、このあと、どうするのがお仕置きとして正解なのかな……とコビーが考えあぐねていると、裾をわずかに引っ張られるような感覚がした。思わず振り返ると、ヘルメッポが熱っぽい瞳を浮かべていた。
「なあ、続き……しねェの?」
 その言葉にコビーは思わず目を見開く。お仕置きはまだ、終わりそうにない。

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