【サンプル】眠らぬ船と仮面舞踏会

 

 グラン・テゾーロ。かつてその船はそう呼ばれていた。
 この世のすべての金がそこにある、と称されるほどの黄金と豪勢の限りを尽くしたその船は、まさに夢の楽園と称するにもふさわしいほどに栄えていた。
 しかし、何者かの力によりオーナー、ギルド・テゾーロの悪事が発覚し、オーナーは逮捕。その後、グラン・テゾーロは一夜にして崩壊。
 黄金に染まった国も、夢のような娯楽も、全てが幻だったかのように消え去ったのだ。
―――だが、この船は沈んでなどいなかったのだ。オーナーを失ったその船はその後何者かによって所有権が移り、選ばれた貴族しか入れない「秘密の社交場」として生まれ変わった、との噂だ。
 そうしてその船は、今もなおのらりくらりと海を漂っている。

「潜入任務……ですか」
 コビーとヘルメッポは海軍本部にある会議室に呼び出され、SWORD隊員であるプリンス・グルスから指令を言い渡されていた。
 その後方には孔雀とひばりも居る。療養中のドレークを除く全員が揃ったことを確認すると、グルスはようやく話を切り出した。
「そうだ。この間の海賊がらみの事件、裏で手を引いていたフィクサーがこの船に頻繁に出入りしているという報告が上がったんだ」
 グルスはそう告げると、机の上に一枚の写真を置いた。
 派手なスーツに身を包んだ、いかにもな人相をしている男性だ。
「長期でもないしまあそんな難しいモンでもないだろ。なのでお前とヘルメッポの二人で行ってこい」
 グルスに指示された二人は思わず顔を見合わせる。二人きりでの任務は久しぶりだ。それに対し若干高揚する気持ちもあったのだが、コビーが首を傾げながら口を開いた。
「あ、あのー……。一応なんですが、なんでぼくらなんでしょうか?」
「そうだな、王子がそのまま行くんじゃダメなのか?」
 コビーとヘルメッポがそう尋ねるのも無理はない。二人は海軍本部では優秀な人材として認知されているとはいえ、難しくないのなら誰でもいいはずである。なぜわざわざ名指しで選ばれたのかは甚だ疑問だ。
「まあ、おれは別に……ほ、他の任務で忙しくてな。あと潜入とあらば、本当は能力を持たないおまえらのほうが適任だ」
 少しだけ言い淀んでるような気がするが、もっともらしくグルスは続ける。
「身分を隠すなら無能力者のほうがいいんだ。その力を使うだけで察しの良いやつにはすぐにバレてしまう。どっかの能力者がそれでバレた実例もあるしな。だからおれと孔雀はパスだ」
 そう説明すると、グルスはふうと息を吐いた。確かに、悪魔の実の力で正体がバレた例は海軍海賊含め多数存在する。なのでそうではない人間のほうがバレるリスクは少ないだろう。コビーは「わかりました」と腑に落ちたように頷き、それにヘルメッポも同意した。
「いいなぁ、豪華客船。ウチも行ってみたかったです」
 その背後で、ひばりが羨ましそうに呟いた。確かに彼女も適任ではあるが選ばれていない。彼女の隣にいた孔雀が不思議そうに訊ねる。
「あれ、今回は外れてもらったけど、ひばりちゃんも行きたいの?」
「は、はい!」
 ひばりは勢いよく返事をしたが、孔雀はバツが悪そうに頭を掻いた。
「いやぁ、それがね……客船自体は別に良いんだけど、この船、良くない噂があってね……」
 孔雀がそう告げるとひばりは「……? 良くない、噂?」と首を傾げた。
 その言葉に便乗するようにグルスが再び話を切り出す。
「そう、それが仮面舞踏会ってやつだ」
「仮面舞踏会?」
 その聞きなれない言葉にコビーは首を傾げた。孔雀が言うには、この船では仮面舞踏会というイベントが定期的に開催されるそうだ。それは身分を隠した男女が出会いを求めるためのもので、参加者たちは皆一様に仮面で顔を隠すのだという。
「仮面を被ることによって身分、見た目などを気にせず社交を楽しむことが出来る……というのは建前上の話」
 孔雀はそこで一呼吸置いて、ギラリと目を光らせた。その眼光に三人は息を呑む。
「でもその裏ではまるで暗黙の了解のように密会や密談が行われている―――というのが、巷ではもっぱらの噂なんだって」
 そう言うと孔雀は大げさなほどに肩を竦ませた。しかしひばりは「そ、それくらい平気ですっ」と一歩も引かずに答える。孔雀はその様子に微笑ましく思いながらも、まるで子供に言い聞かせるように話を続けた。
「ひばりちゃん、密会っていうのはね……つまり、こういうことなんだけど」
 そう言うと徐に孔雀はひばりの耳元に口を寄せ、何事かを囁く。その瞬間——ひばりは勢いよく後退り顔を真っ赤にする。
「……!!」
「不貞姦淫大歓迎、正体すら誰をもわからぬ先で快楽を貪る堕落した宴ってわけ」
 ひばりは口をぱくぱくとさせ、声にならない悲鳴をあげた。その様子にグルスはため息をつく。
 そう、この船には、そんな不埒な目的で訪れる人間が多いのだ。あくまで噂程度ではあるが。少なくとも本来貴族の間で行われていたという仮面舞踏会も裏ではそういう目的があったという歴史上の真実もあるので、まあ想像に容易いだろう。
「で、でもっ。それだったら、なおのことコビー先輩が心配で……。そ、そのぉ……」
 ひばりはコビーをチラチラと見ながら、言いづらそうに口籠もる。それを見てコビーは少し困惑しながらも、慌てたように答えた。
「だ、大丈夫ですよ。ヘルメッポさんも居るし、ハニトラなんてなんのそのですよ」
 そう言って愛想笑いをするコビーに同調するように、ヘルメッポはコビーの肩をポンと叩く。
「そうだな。コイツが靡くとこなんて見たことねェしな。最悪拳でなんとかするさ。ひぇっひぇっひぇっ」
「海賊ならまだしも普通の女性は殴らないですよぉ……まあわかりました。絶対に捕まえてきます!」
 コビーはそう言って鼻息を鳴らしながら答えた。そんな頼もしい言葉に対し、グルスは満足そうに頷く。どうやらその任務の話はこれで終わったようだ。
 しかしそのまま解散の空気になりかけた時、孔雀が手招きをするようにヘルメッポへと話しかけた。
「あ、少佐君、ちょっとちょっと」
「……?」
 不思議そうに顔を向けるヘルメッポの肩を抱き、二人は執務室を出ていった。その背中を見送りながら、一体何なんだろうとコビーは首を傾げたのだった。

 

 変装、とは気軽に言うものの、それはなかなかに骨の折れる作業である。正体を伏せる仮面舞踏会とはいえ、大人数のパーティーとなるとバレないように様々な工夫をする必要があるのだ。
 格好、所作、そして発言―――。もちろんすべてが完璧である必要はないが、出来る限り抜かりのないようにしなければならない。
 そしてときには、当人の意にそぐわない姿をする必要も―――。

「なんっで……おれが女役なんだァ!!」
 先程の剣呑な雰囲気から一転、ヘルメッポの悲痛な叫びが部屋中にこだました。武器庫兼雑倉庫と化していた本部の一室。その重厚な雰囲気の中で、いったいどこから引っ張り出してきたのか―――鮮やかな色とりどりのドレスが一面に広げられていた。
 そんなヘルメッポの嘆きを聞こえないふりしながら、選定担当もとい勝手についてきた孔雀がひばりとともにドレスを吟味している。
「いや、ターゲットが男と判明してるなら、どちらかが女子になるのはしょうがなくない?」
 孔雀がそうやってもっともらしく言い放った。今回のターゲットは男性、しかも相当な女好きとの噂だ。だからこそ女好きのターゲットの懐に入り込むべく、女装してグラン・テゾーロに潜入することとなったのだ。
「じゃあ直接女海兵でいいだろ!! なんでおれが着る必要があるんだァ!」
 ヘルメッポが孔雀にそう叫んだ。しかし孔雀はあっけらかんとした様子で言葉を返す。
「でもSWORDに入った任務だし、なんか事情あるんでしょ。それとも、ひばりちゃんを危険な目に遭わせたい?」
「そ、……それは、できねェけど」
 ひばりのオドオドとした様子を横目に、ヘルメッポが思わずたじろぐ。孔雀はそんな二人の様子をニヤニヤと眺めながら、次のドレスを物色し始めた。
「じゃぁ決定~~♪ これとか似合いそうだけど、どう?」
「やっぱ楽しんでねェか!?」
 そう突っ込むと呆れたようにヘルメッポはがっくりと肩を落とした。
「……大体なんであっちは普通にスーツなんだよ! アイツのほうがまだ女装映えするだろ!」
 そう言いながらヘルメッポは別室にいるであろうコビーを指さして叫んだ。コビーのほうは普通に男物のスーツを見繕ってもらっているようだ。
 しかしそれを聞くと、孔雀は心底残念そうにため息をついた。
「あっちもさせたいんだけどねェ、柔軟に動くと考えたら男1女1のほうが」
「させたいんかい。てかおれは確定なんかい」
「だからしょうがないんだよねェ。これ……着てくれるかい」
 そう言いながら孔雀はヘルメッポにドレスを手渡した。
 フリルとリボンの洪水が、目の前いっぱいに広がる。
「ヴワァーッ!!」
 思わずヘルメッポは声にならない悲鳴をあげた。もうどうしようもない。
 しかし、逃げ場もなく項垂れるヘルメッポをよそに―――ひばりが励ますように声をかける。
「あっ、でもこの髪とかとてもよう仕上がっとりますよ。仮面付けたら女子ですよ女子!」
 そう言うとひばりがヘルメッポの髪を梳き始めた。自前のブロンドの長い頭髪は潮風にも負けない滑らかな指通りで、後ろ姿だけで言えば絶世の美女(?)とも言えなくもない。
「……マジで?」
「はい!」
 自前の髪を褒められてやや気をよくしたヘルメッポが、満更でもなさそうに答えた。
「ま……っ、まあ、そこまで言うなら? やってやらなくもねェけど?」
 そう言いながら調子に乗ってポーズを取るヘルメッポを見ながら、二人は顔を見合わせて笑った。
 それを合図にひばりはどこからか剃刀を取り出し、戦闘態勢のように構える。
「そしたら、やるなら徹底的にせんとですね。脇とすね毛も剃りましょう」
「ひえっ……」
 ギラリと光る刃にたじろぐヘルメッポに、孔雀も続く。
「”アレ”もしてもらうわよ」
「あ、アレ……!?」
 孔雀の言う“アレ”とやらはわからないが、碌でもないことなのはわかったヘルメッポは短く悲鳴を上げる。そうこうしている間に、女子二人がヘルメッポの方へと迫っていく。
「だからさっさと……服脱ぎなさい!」
「ァ―――ッ!!」
 ヘルメッポの悲鳴が、海軍本部の空にこだました。

「ヘ、ヘルメッポさぁん……?」
 そうしている隙に、部屋の扉を少しだけ開けておずおずと尋ねるコビーの姿があった。
 しかし扉が開かれる直前に、孔雀とひばりがその扉を勢いよく閉じる。
「コビー先輩、すみません!」
「うわっ」
「おっと、ここは男子厳禁だよ諸君。当日を楽しみにしなね」
「おれも男ですけど!?」

 

 そうこうしているうちに、潜入当日の日がやってきた。
 手元に揺蕩うビブルカードを道標に、船は迷いなく進む。グラン・テゾーロからの名残だ。
 あの船には停泊という概念はない。常に海の何処かを彷徨い続け、やってきた人々を享楽に飲み込むが如く佇んでいるのだ。
 因みに、以前のグラン・テゾーロであれば天竜人に莫大な上納金を渡し、海賊も海軍も手が出せない娯楽の街と化していたが今はその影すら見えない。前オーナーの悪行が判明してから船ごと存在が消されたとすら思われていたからだ。今思えば、船が存在ごと消えるなんてありえないと思うだろうが。
 そうして時が経ち、別のオーナーに買い取られたあとのグラン・テゾーロは以前よりも無法が目立つという噂だ。あくまで噂で、だが。
 テゾーロマネーにより隅々まで黄金に満ち溢れていたのは過去の話。しかし今でも貴族たちの社交場として、かつ海賊たちの隠れ蓑としてひっそりと息づいているのだ。
 そうしているうちに、霧の中から船影が見えてきた。昔と変わらぬ姿のまま、グラン・テゾーロはそこに鎮座している。これでも規模縮小をしているとの噂だが、それにしても一つの国家ほどに巨大な船だ。この世のすべての享楽をそこに置いてきたかのように佇むまるで一つの国家のような煌びやかな街並みは、人々を海へ駆り立てるほどの魅力に満ち溢れている。まだ船にすら到着していないのに、すでに感嘆の吐息が漏れてしまう。それほどまでにこの船は人を魅了するのだ。
 黄金の船はまるで意志を持つかのようにその大きな口を開き、可動橋をこちらへ向けて降下させた。

 一般船にカモフラージュした軍艦の甲板に佇みながら、コビーは件の船を観察していた。その姿はいつものように正義を背負った隊服ではなく、身なりの良いタキシードを纏っている。
「ヘルメッポさん、そろそろ着くよ」
「あ、ああ……」
 船内にいるヘルメッポに声をかけると、少し躊躇するような声が返ってくる。まるで外に出るのを恥ずかしがっているかのようだ。
 しかし少し間を開けて、どうにでもなれとでも思ったのかヘルメッポは甲板へと姿を見せた。
―――深紅に染まったマーメイドドレス。喉仏はチョーカー、肩や首はショールで隠されているが、ドレスそのものは大胆に背中が開いている。スリットからちらりと脚線美がのぞき、細身の腰が際立っていた。
「……すごいね」
 コビーが感嘆の声を上げた。ヘルメッポは覚悟の決まった表情をしているが、やはり恥ずかしいのか仄かに頬を染めている。
「なんかスゲーノリノリで着させられた。見ろよコレ、紅まで塗ってんだぜ」
 そう言うとヘルメッポは不満げに口元を指さした。確かにその唇には紅が引かれていて、その仕草にコビーは思わずドキリと胸が高鳴った。
 心なしか睫毛も長いような気がして、妙に視線を合わせられない。
「……なんか言えよ。似合ってねェとかさ」
 押し黙っているコビーにヘルメッポは不安になったのか、その顔を覗き込むように話しかけてきた。コビーはハッとして慌てて感想を述べる。
「……いや、なんかこう、すごいとしか言いようがないね」
「どういう意味でなんだよそれは」
 ヘルメッポは不愉快そうに口を尖らせた。コビーは改めてヘルメッポの姿をチラリと眺める。
 孔雀さんやひばりちゃんのチョイスだと聞くが、とても良い審美眼をもっていると言わざるを得ない。自分じゃこうはいかない。ドレスはマーメイドラインで彼のしなやかな体躯を際立たせていて。腰はきゅっと引き締まっていながらも柔らかく、そこから伸びた脚が目を惹きつける。どうしてもこれだけはという彼たっての希望か、一本のククリ刀が太腿のあたりに丁寧に隠されていた。
 元々見た目のわりに色気があるとコビーは常々思っていた。それが今や、そこに女物の紅を差したことで一層艶っぽくなっている。
 思わず手を出してしまいそうなほど、危うい魅力があった。
 でもなんだかここで似合ってるというのも彼的には本意ではないと思うので、コビーは早々に本題へと話を切り出した。
「……まずはどうやってターゲットを割り出すかどうかですが、ヘルメッポさん、何か考えはありますか?」
 コビーの問いに、ヘルメッポは腕組みをして考え込む。
「虱潰しっつーわけにゃいかねェよな。せめて顔見知りかオーナーでもいりゃあな」
「もしくは直接……取引現場を見るか、ですね。ターゲットはこの宴に紛れて取引をしているとタレコミもあることですし」
「それなら楽だな」
「ええ……とりあえず情報収集ですね。ヘルメッポさん、仮面は?」
 そう尋ねるとヘルメッポは招待状から仮面を取り出した。
「ああ、これだろ? お前もしとけよ」
 顔全体を覆い隠す、目元だけが見えるタイプのものだ。ヘルメッポはそれを受け取ると、小慣れた手つきで顔につけた。
 コビーもそれをつけ、互いの準備を整える。遂に潜入の開始だ。

 船内は薄暗い。送迎をしてくれた船の操舵手に軽く会釈をして、コビーとヘルメッポはグラン・テゾーロの中へと足を踏み入れた。
「お待ちしておりました。紳士淑女さま」
 仮面をつけた男が、二人に向かって恭しく礼をする。
「ああ、名乗らなくても結構でございます。この招待状を持っている。そちらで十分です。わたくしどもはこれ以上詮索はいたしませんので」
 男はそう言うと、招待状を懐にしまい込んだ。この船では、招待状を持っている者はそれだけで客と認識されるようだ。そのチェックの甘さに思わず閉口するが、その分治安は保証されないということでもあるのだろう。
「それでは、こちらへ」
 コビーとヘルメッポは仮面のまま互いに頷くと、男の案内に従って歩き出した。

   ◇

 仮面舞踏会は船内のとある一室、一番大きなホールで行われている。
 その眩しさに思わず目を奪われそうになるが、コビーはヘルメッポと共にホールへと足を踏み入れた。
 ギイ、と重い音を立てて扉が開かれると、一層眩しい光が二人を迎えた。
 そこはまるで別世界だった。
 煌びやかなシャンデリア、銀の燭台がホールを彩り、壁は金箔の装飾で溢れている。床は赤い絨毯が敷かれており、靴音すら上等に聞こえてくるような雰囲気がある。そしてホール中央には黄金と宝石によって形作られたテーブルがいくつも並べられていて、その上にはフィンガーフードが所狭しと置かれている。それらを取り囲むようにして人がひしめき合っていた。その中心にはステージがあって、そこでは音楽家たちが音楽を奏でていた。
 仮面をつけた男女が手を取り合い、ダンスを踊る。ワイングラスを手に取り談笑に浸る者もいれば、豪勢な食事に舌鼓を打つ者もいて、皆思い思いの時間を過ごしていた。

 慣れぬ雰囲気にすっかり怖気づいていると、案内の男が再び恭しく口を開いた。
「それでは、ごゆるりとお楽しみください。ああそれと……ホテルのチェックインをご希望であればまたご通達ください」
 男はそう言うと、一礼してホールの奥へと消えて行った。ホテルも常設されているとは、要するにここは噂されている通り男女としての社交場としても機能しているのだろう。二人は顔を見合わせ、再びホール内に目をやった。
「お、あそこにカジノあるぜ、やってみっか」
 ヘルメッポはそう言うと、仮面の下を得意げに笑って見せた。彼の言う通り、ホールの最奥にはカジノが設置してあり、賭け事に執心な人たちが娯楽に興じている。
 何というかこの舞踏会、品があるのかないのかよくわからない。真っ先にカジノへ向かおうとするヘルメッポをコビーは慌てて引き止めた。
「ヘルメッポさん、いくら仮面付けてるからってもうちょっと話し方を……」
「……わーったよ」
「それに、まずは情報収集だよ」
 コビーに諭されて、ヘルメッポは面倒くさそうにため息を吐いた。
「へいへい……んじゃ、まずはあのテーブルからだな。お行きになりましょうか」
 そう言ってヘルメッポはコビーの腕を引くと、そのテーブルへと向かった。

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眠らぬ船と仮面舞踏会
オーナーが居なくなったあとのグラン・テゾーロで開かれる仮面舞踏会に二人で潜入する話です。ヘルメッポさんが終始女装しています。番外編4編あり。

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