海風に金の糸が揺れる。その持ち主はぐいと後ろの髪を持ち上げ、器用に紐でまとめ上げた。馬の尻尾のようなのでポニーテールと名付けられたその髪型は、女性士官でもよくやるやり方だ。
水場の作業、特に濡れることが分かっている場合にヘルメッポさんはよくこの髪型にする。今回のケースはまさにそれで、船の係留作業中にうっかりロープを落としてしまったためだ。普段は彼なりの流儀でサイドに髪を落としているが、そう言ってる場合ではない時もある。
「やっぱおれだよなァ~~~他の奴らにやらせてチクられるのも嫌だし」
心底うざったそうに彼が呟いた。当然、ロープを落とした張本人である。
「そ、そうだね……」
「ジジイにバレる前にやっちまうわ。おい、コビー、これ持っとけ」
そう言うとカチャカチャと腰につけていたベルトを外し、ククリ刀ごとこちらに放り投げた。上着、メモ帳や小物、ポケットの煙草をポイポイと地面に置きながら着々と潜る準備を進めていく。靴下を脱いで素足が顔を出すと、いよいよ波止場の水際まで歩いていった。そこで一度立ち止まり海の中を覗き込むように身を屈める。
「寒いかー? 水温とかわかっかー?」
「わかんない」
「しゃーねェなあ……っと!」
インナーとズボンだけになった彼は徐に海へと飛び込んだ。しなやかな体躯から繰り出された着水は水飛沫も少なく、彼もまた海に生きる男だということをまざまざと思い知らされる。そこから躊躇することもなくザブザブと波を掻き分けながら沈んでいき、あっという間に見えなくなってしまった。
「ヘルメッポさん大丈夫かな……」
一人取り残された気分になりつつも待つこと数分、ようやく浮上してきた影を見つけホッと胸を撫で下ろす。
「よっ……と」
軽やかに水面から顔を出した彼はどこか楽しげだ。それから慣れた様子で岸壁に戻ってくると手元のロープを早々に岸に引き上げた。
「ロープあったぞー」
「あ、ありがとう」
「はぁ……寒……やっぱ夏島じゃねェと寒さが沁みるなァ」
そう言うとヘルメッポさんはぶるりと身を震わせながら岸へ身を乗り出した。濡れた肌は鳥肌のように粟立っていて、まだ冷たいことを思い知らされる。
水面から上がったヘルメッポさんが髪を解くと、金の糸がぱらりと肩に散って陽光に照らされた。
何故か、何故だかわからないけれど目を離せなくて、思わずその仕草をずっと見つめてしまう。
胸の奥が熱くて、止まらない。見慣れている光景なはずなのに、どうしてかヘルメッポさんの全てが美しく見える。くっきりと映る端正な身体も、水を搔いた四肢も、濡れた髪も。
「……ん? どうした、コビー」
視線に気がついたのかヘルメッポさんがにわかに顔をあげる。
その感情の正体を、まだぼくは知らない。
*お題なし* 1114字

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