それはきっとレアケース

 

「涼さ、最近他校の人と一緒にいるよね」
 穏やかな昼下がりの教室。いつもの面子と昼食を食べていたのだが、目の前にいる星合美子が突然話を切り出したので、オレは思わず緑茶を噎せてしまった。
「ど、どこでその情報を……?」
「あれ、ホントなんだこれ。クラスの子に聞いたんだけど」
 美子はそう続けた。クラスの奴らなら確かに目撃されても仕方ないが、まさかそんな経路で美子に伝わるとは思っていなかった。まあ、隠してたつもりもないのだが。
「何の話なの? 誰?」
 隣にいる管崎舞が、興味があるのか話に乗り出してきた。
「そんなの、誰だっていいだろ」
「ん? なんかソニ学の人で金髪で眼鏡で……」
「あー! キョクリス先輩?」
 舞が口元に手を当て、おどろいたような仕草をした。そこまで意外に見えるのだろうか。
 
「珍しいな、お前は他校生と仲良くなんてしないだろ」
 黙って話を聞いていた川和壬獅郎が、そっと口を開いた。
「そうだよ、他校生どころかクラスメイトとも仲良くする気のない涼がねー」
 そういって美子はしみじみとした表情をした。やめろ、てかお前はオレのお母さんか。
「別にそんなつもりはないし、そこまで珍しいこともないだろ」
 こうしても埒が明かないと踏んだオレは、そのまま話を続けた。
「大体、アイツは友達でもなんでもないし、たまたま出会っただけだし、利害……とか一致してるだけの……その……」
 はっきりと言うつもりだったのだが、しどろもどろになってしまって言い出したことを後悔した。少なくとも友達では絶対ないのはわかっているが。

 そんなことをしていると、自分のスマホが鳴った。しかも間の悪いことに、曲山からの通知だった。以前カフェに行った時の写真が数枚送られてきていたらしい。
「あ」
 オレはスマホをカバンに戻そうとしたが、その前に美子たちに見つかってしまい、スマホを取られてしまった。
「……これは言い逃れできないね」
「や、だから、これはアイツが勝手にラインで一方的に送りつけてるだけで……」
「既読付けるか」
 壬が唐突に美子からスマホを取り、動かそうとしていた。
「やめろ! オレのスマホを勝手に弄るな!」
 そう言って壬からスマホを返そうと奮闘する自分を後目に、美子と舞はお互いを見合わせていた。
「なんか、ホントに珍しいね、舞」
「うん」

◇◇◇

「キョクリス先輩、最近付き合い悪いじゃん。恋人でもできたの?」
 食堂で菓子パンの袋を開けながら、吹越聖月は自分に向かってそう尋ねてきた。
「なんでそうなるんですか?」
 何故恋人というワードが出てきたのかがわからないので、聖月に理由を訊ねてみた。
「ここ最近、外出するから行けないって何回か言ってたの気になってたし、あと、さっきスマホみてニヤニヤしてたから」
「ええっ、ボク、そんなニヤニヤしてました?」
 ニヤニヤしていた自覚はなかったので、少しビックリした。そんなに顔に出るタイプだったのか。ボク。

「恋人だったらよかったんですけどね」
 既読になった金井淵君のラインを眺めながら、ボクはぼそっと呟く。
「あれ、違うんだ」
「はい、強いて言うなら、猫……」
「猫!?」
「例えばですけど、野良猫に餌やってる感じ……」
「の、のら猫……?」
 それを聞いて聖月は目が点になって呆けていた。顔に出やすいタイプはお互い様だな、とボクはちょっと思った。
「あ、すみません、ボク委員会があるので先にいきますね。また後で話しましょう」
「えっ、はーい、キョクリス先輩いってらっしゃい」
 聖月は怪訝な顔をしていたが、委員会の時間が迫っていたのでこの場を後にした。本当は金井淵君のことを話したかったのだが、文化祭が近づいているので、致し方なしだ。

「猫……」
 自分が席を立った後も、聖月はじっと考え込みながら猫という言葉を反芻していた。
「それって……可愛がってるってことじゃないの?」
 不意に聖月のぼそりと尋ねた声が聞こえたが、聞こえてないふりをした。

◇◇◇

「でさ、その焦った顔が面白くてさ、笑っちゃうよね」
 とある病院の一室。お見舞いに来ていた管崎舞が、ベッドの上の人物に話しかけていた。
「そうなんだ。まあでも涼も楽しくやってるみたいで良かったよ」
 ベッド上の人物である管崎咲良は、元気そうな彼らの話を聞いて朗らかな表情をした。
「特に最近はねー。あとは早くお見舞い来てくれたらいいんだけど」
 そう言って舞はりんごを切り終わり、爪楊枝を差して咲良へ手渡した。
「はいどうぞ」
「助かるよ。しかし……あの涼に対してそんなグイグイくる人がいるなんてな」
 受け取ったりんごを頬張りながら、咲良は呟いた。

「興味があるな。その人は、どんな匂いがするのかな」
 この言葉をきいて、舞は「それ、知りたい?」と不思議そうに笑っていた。

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