金井淵君に告白してから、何日か経った。
いや、厳密には、告白してないことになってたんだっけ。と自分で再び思い返した。
あのときのことは、今でも穴に埋まりたいくらい恥ずかしいけど。それでも許してくれた彼にはとても感謝してる。
金井淵君とは、今でも変わらず友人として会っている。
そりゃあんなことがあったあとですから、最初はとても気まずくてお互いにぎこちなくなっちゃって、こんなことなら会わないほうがよかったんじゃないかと思うくらいで。でも、しばらくするとそんな空気も薄れていって、今では普通の友達みたいな感じになっていった。
……だけど”想いを伝えてしまった”という事実は忘れようにも忘れられなくて、時々ふとした拍子に思い出してしまう。
ああ、なんて罪深い関係になってしまったんでしょうか。
◇◇◇
土砂降りの季節はとうにすぎたというのに、バケツをひっくり返したような雨が降り出した。思わずどこかの軒下に駆け込んだけど、たどり着いたときにはすっかりびしょ濡れになってしまった。
「寒くないですか?」
横にいる金井淵君に訊く。彼は、平気だ。と答えながら上着の水滴を払っていた。
サングラスに水滴が張り付いて視界が悪い。ボクはそれを胸ポケットに仕舞い、じっと空を仰いで雨が降り止まない灰色の雲を眺める。
あの日もあんな雨の日だったなー、と染み入る雨水の冷たさに身震いしながら思い出す。
こないだのあの時も金井淵君と二人きりだったね、と思いながら隣を振り返ったのだが、金井淵君の姿を見て思わず目を逸らしてしまった。
そう、自分がこんなにずぶ濡れだってことは、当然隣の金井淵君もずぶ濡れなわけで。
緩やかなウェーブの髪は、水分を含んで重く垂れ下がり金井淵君の頬や首筋に張り付いて、艶っぽく映し出す。毛先からポタポタと水滴が落ちて、衣服や白い素肌を伝って落ちていく。
少しアンニュイな表情で気だるそうに濡れた髪をかきあげる仕草に、ボクの心臓が跳ねるように揺れていた。
ドキドキする。正直、この状態の金井淵君を直視できなくて、不自然に顔を伏せてしまう。
……でも、ちょっとくらい、見てもいいかな……。ちょっとだけ……。
「……何やってるんだ」
気がついたら、金井淵君の背後残り数センチのところまで近づいていたようで、いきなり声をかけられてボクは驚いた。
「め、眼鏡外してるから……よく見えなくて」
「それでもなんでこっちを見る必要があるんだ」
「確かにそうですけど……」
「言っただろ、今度変なことしたら速攻で振ってやるって」
ご、ごめんなさい、と答えると金井淵君はため息をつき、空へと視線を戻した。
雨はまだ止みそうにない。しばらくボクらの間に、気まずい空気が流れる。
ああ、またやっちゃったな。この間も、好きな気持ちが抑えられなくなっちゃってやらかしたばかりなのに。どうして金井淵君といるときはいつもこうなんだろう……。
「……」
そんなボクの様子を理解しているのかしていないのか、金井淵君は黙ったまま腕を組んだままじっとボクを見つめていた。
「……オレん家近いから、寄るか?」
気まずい空気を断ち切るように切り出されたのは、金井淵君の意外な言葉だった。
「えっ……いや、でも」
「変なことしないならな。このまま風邪引くよりかはましだろ」
そう言って、金井淵君は上着を羽織りなおす。
……やっぱり、優しい人ですね。
動揺するボクを即座に窘めながらも、雨宿りに家を貸してくれる金井淵君のその優しさに胸がいっぱいになる。
「……はい」
「だったらホラ、早く行くぞ」
「えっ、ま、待って!」
即座に走り出した金井淵君の背中を見て、ボクは慌てて後を追うように雨の中駆け出した。
ああもう、そういうところがずるいんですってば。
こんなん、好きになっちゃうじゃないですか。
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