「……甘っ!!」
 静かな執務室に、ヘルメッポの素っ頓狂な声が響いた。手元のコーヒーカップにはなみなみと注がれた褐色の液体が揺れている。覚醒と苦みを生み出すはずのそれはもはや様々なノイズに満ちて、ただの甘味飲料となり果てていた。
「お前ェいつもこんな砂糖いれてンのか!? ゲロ甘くて吐きそうだわ」
 元の持ち主であるコビーへ返却すると、ヘルメッポはげんなりした表情で眉を顰めた。
「べ、別にいいでしょ人の嗜好なんて」
 少しだけ恥ずかしそうにしながらも、コビーはカップを口へ運んだ。「ん、甘いね」とにわかに声が漏れる。
 さもこれを飲むことが当たり前と言わんばかりの反応に、ヘルメッポはやれやれと肩を竦めた。
「だいたい珈琲なんてもんは砂糖やミルクなんて入れずに誇り高い香りと苦みを味わうもんだろ。これじゃ豆が泣いてるぜ」
「あ、出た。めんどくさいヘルメッポさん」
「こないだだって会議中にミルクがっつり入れた時の支部中将の顔見たか!? いくら嗜好にしてもやりすぎだって……おいコビー、聞いてンのか?」
 お説教モードに入ろうとしたヘルメッポが顔を上げると、既にコビーの姿は消えていた。「……あれ?」と怪訝な顔を浮かべると、そのすぐ後ろに気配が現れる。
「……ヘルメッポさんだって、甘いの好きなくせに」
 振り返る間もなく耳元に柔らかい感触が触れた。背後にぴったり寄り添うように体を寄せたコビーが、甘く囁く。
「ちょ、コビー、やめっ……」
「この間も、もっと欲しいって言ってたじゃない――」
「あ~~~~~わかった! わかったから執務中はやめろ!」
 ヘルメッポが強引に腕をつかんで引きはがすと、コビーは不服そうな顔で素直に身を離した。まあ流石にそこはわきまえているようだ。
「ったく……。辞めろとは言わねェが、歯は磨いとけよ! 虫歯になったとかで泣きついても知らねェからな!」
「そんな、子供じゃないんだから」
「子供だろ」
「……むぅ」
 むくれながらもどこか嬉しそうなコビーに、ヘルメッポは苦笑する。
 甘いのはおれか。と自嘲気味にぼやきながら、自分の分の珈琲を口に含んだ。

 

 

 

*【コビヘル】「んっ、甘いね」*

 855字

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