本日の執務室は、椅子がない。
 タタミと呼ばれる床材に素足を乗せ、そのまま床に座ったまま話を聞くのが基本とされる。初めて聞いた時はあまりにも珍妙だと思ったが、遠い海の果ての文化だと教えられたらもちろんこちら側は郷に従う他ない。
 そして何故この海軍本部にそのような部屋が設けられているのか。それは——目の前にいる海軍大将、藤虎の趣向であった。
 藤虎はゆったりとした足取りで眼前へと姿を現し、その場に座して三白眼をすうと細めた。
「ご教授よろしくお願いいたします」
 目の前のコビーが深々と頭を下げた。しゃんとした背筋をしっかりと折り曲げ、つむじを藤虎に晒している。それにつられるように背後のヘルメッポも慌てて頭を下げた。
 今日の座学は歴史だ。偉大なる航路の島々特有の文化と歴史を学ぶことができる、海軍本部ならではの講義だった。なかなか大将直々に教わるということはないのだが、何か強い拘りでもあるのかそれとも只の教えたがりなのか、こうして藤虎が自ら教鞭を取ることはままあった。
 しかし、時が経つにつれて海兵たちはもう一つの試練に悩まされることがある。
 それが——これだ。
(痛ェ……っ)
 ヘルメッポは座りながら悶絶していた。もはや太腿の感触などとうになく、圧迫された足は感覚を失う。全体重を乗せた足はいくら鍛え上げられていても限界を迎えてしまう。
 なので、隠し隠し大将にバレないように足を崩さないといけない。なんという拷問か。一応今までバレたことはないが、バレたらどうなってしまうんだろうと思いつつヘルメッポは足を少しずつずらし始めて足の血を巡らせた。
 その間もコビーは微動だにしない、それどころか泰然とした表情で黙って座学を聞いている。真面目だなァと感心と呆れ半分でヘルメッポはその方向を黙って眺めていた。
 ふと、今日はここまでという藤虎の声が頭上に降りかかった。ヘルメッポが思わず顔を上げると、藤虎は座学終了の合図とともに部屋をそそくさと去っていった。
 一気に緊張がほぐれたように周囲の人間たちが足を崩して嘆いていた。やはり皆同じだったのだろう。
 終わった——とヘルメッポも足を崩して一息ついていると、コビーが真面目な顔つきのままちらりとヘルメッポのほうを向いた。
「ヘルメッポさん」
「何だァ?」
「立てない」

 

 

 

 

*【コビヘル語り】2人とも床に長時間座り、立ち上がろうとしたら、1人が足が痺れ立ち上がれなくなった時の2人について語りましょう。 936字*
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