コビー大佐という方は、普段はとても真面目で隙のないお人です。
 どんな任務もきっちりこなし、上官にも部下にも同じように頭を下げられる。実力も申し分ないのに、それを誇る素振りは少しもない。
 けれど――生活の細やかなところまで完璧、というわけではありません。それを知っているのは一部の人間だけになりますが、どうやらプライベートになりますと少々抜けている部分もあるようなのです。
「おはようございます」
 明朝、大佐がいつものようにご挨拶をされてきましたが、なんだかその日はいつもと雰囲気が違うような気がしました。髪の寝癖はいつも通りで、大佐は所持しているバンダナでまとめて整えています。その際にどうしてもピンクのカモメが表れてしまうのは御愛嬌。しかし、本日の大佐はなにか違う。いつものお格好でしたが何かが足りないような感覚を覚えたのです。
 申し訳ないと思いつつもじっくり眺めていると、そう、額に乗せている眼鏡がございません。いつも同じ丸眼鏡をかけられている大佐ですが、その眼鏡が今日はなかったのです。
「あの、大佐。本日はお眼鏡はどうされたのですか?」
「あ、えっと、あはは……」
 なんだか曖昧なお返事をなさる大佐に違和感を覚えつつ、もしや壊してしまったのではないかと慄いておりましたその時です。
「おい、コビー」
 そうして大佐の頭上から声が降ってきます。そうです。副官のヘルメッポ少佐です。彼は大佐の優秀な相棒であり、きっと一番信頼されている部下でもあります。
「身なりくらいちゃんとしろよ。ほらこれ」
 そう言うと少佐は我々の目の前で大佐に眼鏡を掛けさせ始めました。我々の目の前で、です。その時間だけはまるで我々のことなどまるで眼中にないかのようにお二人だけの空間で、少佐が大佐のお顔を両手で包み込むようにしながら眼鏡を掛けて差し上げるのです。
 そのお二人の空気に圧倒されたまま、我々ははその一部始終を眺めておりました。
——もはやその光景は慣れっこでございますが、どうして少佐が大佐のお眼鏡を持っていたのかは謎のままなのです。

 

 

 

*22.コビーが部屋に忘れていったものを、翌日「落としたよ」と言って返すヘルメッポ*

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