「ヘルメッポさん、ソーマトーって知ってる?」
ある昼下がりの宿舎で、コビーがそう尋ねてきた。そう言う彼の手元には本のようなものを所持していたので、おそらく本の中にその単語が出てきたのだろうとヘルメッポは直感した。
「走馬灯な。自分が死ぬ直前に人生で経験したことや親しい人が脳内リフレインするとか何とか」
「そうなんだ」
コビーは納得したように頷いた。一体どんな本を読んでいるんだと呆れたが、まあそんな変なスピリチュアルなものではないとは思う。
「まあ悪魔の証明なんだけどな。だって死人に口なしだし、語れる奴なんて臨死体験した奴くらいなんじゃねェの?」
ヘルメッポがそう答えると、コビーはうーんと頭を捻らせた。確かに死んだ人間には聞けるはずはない。この世界は何が怒っても可笑しくない摩訶不思議な世界ではあるのだが。
「……死にかけたことはいくつもあるけど、まだそれは体験してないなあ」
「んじゃ、まだ死ぬときじゃなかったのかもしれねェな」
あと死ぬとか縁起でもねえからやめろ。と付け加えながらヘルメッポはコビーの手元にある本を覗き込んだ。そこにはやはり走馬灯のことが書かれていて、親しい人や人生の出来事について――まさにヘルメッポの言った通りのことが記述してあった。
そのページをじっくりと眺めながら、コビーがおもむろに口を開く。
「……何となくですけど、走馬灯で流れるのは殆どヘルメッポさんじゃないかなって思うんです」
それを聞くとヘルメッポは顔を顰めた。
「いやお前そんなわけは……会ってから二年くらいだろ、おれら」
「はい。でも、ヘルメッポさんだと思います」
否定されてもなお意見を変えないコビーに、ヘルメッポは呆れたようにため息をつく。そんな保証も根拠もないのに、どうしてそう言い切れるのか不思議で仕方ない。見聞色はないけれど、やっぱりコイツは馬鹿正直でバカ野郎だ。
――しかし、
「奇遇だな」
そう言ってヘルメッポは恥ずかしそうに頭を掻く。ヘルメッポ自身もまた、そんな馬鹿正直な直感を感じていたのであった。
*20.コビーもヘルメッポも、自分の走馬灯のほとんどはこいつになるんだろうなとお互い思っている。*


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