コビーが、ヘルメッポを海賊の魔の手から救い出した数日後のこと。
「うーん……」
海軍宿舎のベッドで、コビーはうなされていた。就寝時間も過ぎたというのに、どうしても眠ることができない。
ここ何日か―――具体的にはヘルメッポさんを助け出してから、妙に寝付きが悪い。それは気のせいでも何でもなく、あの時から気になっていることがあるからだ。
当然、「大切な友達が殺されるかもしれない」という危機はとても肝が冷えたし、助けられて良かったと心の底から安堵したにも関わらず、コビーの胸中では嫌な予感と妙な胸騒ぎが渦巻いていた。
(だ、ダメだダメだ。今日も早く寝てしまわないと)
コビーは寝返りを打ちながら、無理やり目を閉じようとした―――その時だった。
ギシ、とベッドが軋む音を立てて、コビーの上に何かが覆いかぶさるような重みを感じた。薄く目を開けて確認すると、そこには自分の身体に跨っているヘルメッポの姿があった。
ヘルメッポは少し眉を顰め、切なげにこちらの顔を覗き込んでいる。
「ど、どうした、の」
コビーが言い終わる前にヘルメッポは身体をこちらへと預け、そのまますり寄せるように顔を埋めてきた。
薄い衣服越しに体温が伝わり、熱い吐息が耳元を掠める。
「へ……っ!?」
コビーは驚いて目を泳がせた。その声に気が付いたヘルメッポが、顔を上げて口を開く。
「起こしちまったか……悪いな」
「いや、いいけど。どうしたの?」
そう尋ねるとヘルメッポは頬を寄せ、ぎゅっと軽く抱きしめながら静かに言葉を紡いだ。
「……あのさ……最近、悪夢を見るんだ、おれ」
「う、うん」
「あのときお前にどうしても言えなかったけど、あの日、おれはその……薬を盛られて、そのまま……犯、されてて」
「……うん」
その言葉を聞いた時、コビーは胸が締め付けられる思いがした。―――それと同時に、自ら感じていた嫌な予感の正体はこれだったのかと確信した。
「忘れようと思ったけど……どうしても忘れられなくて」
ヘルメッポはぎゅっとシーツを掴み、微かな声を絞り出すように呟く。
「……コビー、埋めて、欲しいんだ。お前で……」
「……」
コビーは一瞬思考が追いつかず、目をぱちくりとさせた。そして意味を理解した瞬間、耳まで真っ赤に染まるのを感じた。
「う……あ……」
だけど、うまく言葉が出てこない。
そのまま呆然としていると、ヘルメッポは少し悲しそうに眉を下げながら言葉を続けた。
「……やっぱり嫌だよな。こんな理由で、お前となんて」
「え、いや、そんなことは」
思わず否定すると、ヘルメッポはまるで懇願するようにコビーの目をまっすぐに見つめた。その目には、うっすらと涙が溜まっているように見えた。
「お前しか居ないんだ……頼むよ……」
その目を見た瞬間、コビーは居ても立っても居られなくなった。
コクンと小さく頷いてヘルメッポの身体を優しく抱き寄せると、誘われるがままそのまま唇を重ねる。
「ん……」
深く口付け、小さく声を漏らす。
それに呼応するように、ヘルメッポが舌を絡ませてきた。
「ふっ……んん……っ」
荒い吐息と唾液が混じり合い、口内を貪る熱に脳が蕩けそうになる。
経験したことのない大人のキスにコビーはビクリと身体を震わせるが、抱き寄せた身体を、この手を、この唇を離すまいと必死に食らいつく。
「んっ……はあ……」
唇を離し、熱く茹だった瞳でお互い見つめ合う。
そのままコビーはヘルメッポの纏っていた衣服に手をかけ、ゆっくりと脱がしにかかった―――その時だった。
突然、ドンと音を立てて壁に何かがぶつかる音が聞こえた。コビーは慌ててヘルメッポを引き剥がして隣を振り向いた。しばらくしたらグゴゴ……といびきが聞こえてきたので、おそらくは隣の部屋の海兵が寝返りを打ったのだろうと推測できた。
「……」
二人は少し気まずそうに顔を見合わせた。
そうだ、ここは海軍宿舎。個室ではあるが壁は薄い。
そのままお互いに沈黙が訪れていたが、コビーがそっと話を切り出した。
「や、やっぱ場所変えない?」
◇
宿舎から出て廊下を進んだその奥の、シャワー室。
この夜更けだと流石に人の気配は無く、僅かに灯された明かりだけが二人を照らし出す。
「ん……っ」
個室に忍び込んだ瞬間、もう我慢ならないと言った様子で二人は口づけを交わした。唾液の絡まる音と、口内から漏れ出る声だけが響き渡る。
一旦口を離すと、そのままコビーはヘルメッポの首元へ唇を這わす。
「んあ……っ」
ヘルメッポが小さく嬌声を上げる。次に腰に手を回し優しく愛撫してあげると、ビクリと身体が跳ね上がり、気持ちよさそうな声を上げる。
そのまま暫く愛撫を続ける予定だったが―――ヘルメッポはコビーを引き剥がし、「コビー、挿れてくれ、早く……」と縋るような声で懇願してきた。
「ええと……じゃあ、次は……」
急かすヘルメッポに少し驚きながらも、コビーは次の手順を思い出す。
再びヘルメッポを抱きしめながら、たどたどしい手つきで太ももを撫でて下腹部へと持ってきた。このまま指を秘部へ差し入れるつもりだったのだが―――ふと、ヘルメッポが思い出したかのように呟いた。
「あ……指は、いいかも……もう意味ない、し」
「えっ……?」
予想外の言葉に、コビーは動揺して動きが止まる。
それはヘルメッポも同じようで、己の発した言葉に驚いているようだった。
「あー……いや、コビー、なんでも」
「どういう、ことですか。まさか……」
コビーは不安そうな目でヘルメッポを見やる。その瞬間、コビーの心臓がドクンと跳ね上がった。それは興奮のそれではなく、湧き上がる憎悪の感情。
ふと頭によぎったのは―――先ほどの「犯された」という言葉と、海賊船へ潜入したときに見た、海賊たちにいやらしい手つきで触られていたヘルメッポの姿であった。
「……誰に、されたんですか。今度は嘘つかないで、教えて」
静かな口調で、じっと肩を抱いてコビーは尋ねた。
その気迫に呑まれそうになりヘルメッポは、そっと目を逸らす。
「……」
暫く黙っていたが、まるで観念したかのようにヘルメッポは言葉を紡いだ。
「……数人がかりで、親玉のやつにも、……されてて……うっ!」
ぽつりぽつりと呟いた直後、何かを思い出したかのように顔を顰めた。
コビーが心配そうに見上げると、ヘルメッポの目には涙が溢れていた。
「う……ううう……うああああっ……!!」
堰を切ったように涙をボロボロ流し、コビーの肩に顔を埋める。―――嗚咽混じりの悲痛な声が響き渡る。
「……!」
それを聞いて、コビーはただヘルメッポを抱きしめることしか出来なかった。
「……っ、すまん」
少し落ち着いたヘルメッポは顔を上げ、背後のシャワーの蛇口を捻った。
二人の頭上から温かい雨が降り注ぎ、涙を洗い流していく。
「……もう、激しく、ぐちゃぐちゃにしてくれ。誰に犯されたか、わからなくなるくらいに」
消え入りそうな声で、ヘルメッポが呟く。その言葉にコビーは再び胸が締めつけられるような想いがしたが、やがて決意を込めた目で前を向いた。
「そんなことは……できません」
コビーはそう言いながら、目の前のヘルメッポの身体を壁へと押し付ける。そうしてまるで縫い付けるかのように、両腕を強く掴んで言葉を吐いた。
「死ぬほど優しくしてあげます」
◇
「はぁ……、ああぁっ……あっ……」
ヘルメッポは壁に手をつき、コビーに背を向けるように立つ体勢になる。後ろから腰を密着させながら、コビーは下腹部へと指を這わせる。
手繰り寄せるようにしっかりとヘルメッポの陰茎を握り込むと、ゆっくりと上下に扱いていく。
「ん……っ、おれのは……いいってえ……」
「今更何言ってるんですか。ぼくはヘルメッポさんにちゃんと……気持ちよくなってほしいんですよ……っ」
コビーは息を荒げながらも、扱く手を止めない。
「あっ、そこ……っ」
「ん……気持ちいい?」
そう尋ねると、ヘルメッポは身体を震わせながら小さく頷いた。そうすると同時に陰茎は徐々に固くなりはじめ、先端から先走りの液が溢れてくる。
十分に仕込んだと確信したコビーは、自分のものも固くさせようと一旦離れて右手で触れ始める。
「お前は……自分で、弄るのか?」
コビーの様子を見て、ヘルメッポが問いかけた。
「え、そうだけど……」
「ココ、使えよ……っ」
そう言ってコビーの右手を掴むと、そのまま自身の下腹部の太ももの間にあてがった。
「え、でも……」
「いいから……っ」
言われるがままにコビーは自らの陰茎を取り出し、ヘルメッポの太ももの間に差し入れる。互いの熱と粘液で、ぐちゅりという音が響いた。
「あ……っ! すご……これ……」
柔らかな肌と、二人の陰茎が擦れ合う感触が今まで感じたことのない快感を生み出す。コビーは前へ後ろへと滑らせながら、自分のそれが固くなるのを感じていた。
このまま達しそうになったが、ヘルメッポが静止するように動きを止めてコビーのほうを見やる。
「もう、いいだろ。入れ、てぇ……」
「……わかったよ」
ヘルメッポの切ない声に呼応するように、そっと頷いて自らの陰茎を太ももから引き抜いた。
「ん……」
「挿れるよ……っ」
そう言ってコビーがゆっくりと腰を押し進めると、ヘルメッポの秘部はすんなりとそれを受け入れた。
「……!」
あまりにもあっさりと入ってしまったことに複雑な感情を抱えるが、そんな様子のコビーを見てヘルメッポは安心させるように言葉を吐く。
「大丈夫大丈夫。お前のやつ、ここまで、入ってる、ぜ……っ。んははっ……」
自らの腹をさすりながら笑ったが、コビーからの言葉が出ないことに気がついて眉を下げる。
「……やっぱこんなゆるゆるのココ、嫌だよな。ごめんな」
そう自嘲したヘルメッポに対し、―――まるで何かのスイッチが入ったかのようにコビーが目の前の強く腰を掴んだ。
「嫌なんかじゃ、ない」
「んあっ……!!」
肌がぶつかり合う音が響き、ヘルメッポが声にならない声を上げた。
そのまま何度も腰を打ち付けると、そのたびに身体が揺れ、嬌声が漏れ出す。滑らかな下腹部とナカは、しっかりとコビーのものを咥えこんでいる。
「どんなんでも、ヘルメッポさんは、ヘルメッポさんです……っ。何があったって……ぼくの大好きな……っ」
身体をしっかりと抱きしめながら、コビーは言葉を吐いた。
「だから……っ、そんなこと、いわないで……っ」
「んあ……っ、はあ……っ!!」
この言葉を受け、ヘルメッポのナカが締まるような感覚がした。その刺激にすでに果ててしまいそうになりながらも、コビーは耐えて強く挿入を繰り返す。
それと同時にヘルメッポのそれも扱いてあげると、そちらもびくりと震え先端から液が溢れ出す。
「あっ……、ああぁっ……!」
やがて、二人の限界が訪れて―――互いの身体に白濁が飛び散った。
身体を支えるようにしてそれを引き抜くと、二人とも崩れるように壁へもたれかかった。
「ん……どうだった?」
床にへたり込み、息を整えているヘルメッポに対してコビーは話しかけた。
ヘルメッポはそっとコビーのほうを見上げると、彼の頭をひと無でしてから言った。
「……んなん、実質告白じゃねーか」
◇
少し夜風を浴びたくて、二人は海軍宿舎の屋上へと向かった。
見慣れたニューマリンフォードの景色も、頭上遥か遠くに聳える赤い土の大陸の風景も、夜更けに見るとまた違った顔を見せた。
ベランダの縁に手を掛けて海風に揺られながら、ヘルメッポは話しだす。
「なんかおれ……ホント情けねーよな。お前に助けてもらっちまって、しかもあんなことまで……」
しおらしく呟くヘルメッポに対し、コビーは即座に首を振る。
「そんなん、気にしなくていいよ」
「……」
否定の言葉を受けてもなおもヘルメッポは黙ったまま、答えない。―――答えられない。
コビーから目をそらすように港の方向を向いて、ヘルメッポは続ける。
「でも……お前の足手まといになるくらいだったら、おれ……海軍なんて……」
そう切なげにヘルメッポが次の言葉を吐く直前。―――コビーはヘルメッポの眼前に迫り、腕を取った。
「おりゃ!」
「おわっ……!?」
そのままもう片方の手で襟を掴んで、後方へ投げ飛ばす。先ほど触れられていた優しさとは違ったコビーの本気の力に、完全に油断してヘルメッポはなすがまま投げ飛ばされた。
そして床に転がるヘルメッポに対して―――即座に足で腕を挟み逆方向へと捻って強烈な関節技を仕掛けた。
「弱音吐くの禁止!!」
「ぐわあぁ!! 無駄に力が強い!」
見事なまでの腕ひしぎ十字固めを決められたヘルメッポは、情けない悲鳴を上げる。抜けだそうにもコビーの足の力と腕の痛みで全く抜け出せない。
コビーは腕を捻らせたまま、言葉を続ける。
「ぼくたちで……立派な海軍将校になるって誓ったじゃないか!! そりゃ、いろんなことはあるし、苦しい、死んだほうがましなときだってあるけども……お互い苦しみを分け合って、助け合って、強く正しい海兵になるって言ってたのも、嘘だったんですか!?」
「ああああ痛え痛え痛え!! それは嘘じゃねえよ!! ……うわっ!!」
ヘルメッポが涙混じりの悲鳴で答えると、コビーは手と足をようやく離して立ち上がり、寝そべるヘルメッポを見下ろした。
「だったら……何千何万回だって助けに行きますから、ぼくの傍に居てくださいよ」
「コビー……」
「ぼくはヘルメッポさんを信じてますから」
そう言ってコビーは、床に寝そべるヘルメッポに手を差し伸べた。
―――その真っ直ぐすぎる言葉に、ヘルメッポはなんだか体の奥がじんと熱くなるのを感じていた。
「ったく、お前には敵わねえな……」
ヘルメッポは身体を起こし、コビーの手を取って立ち上がった。その様子を見て、コビーはにっこりと微笑んでいた。
「そうと決まれば明日も特訓! ヘルメッポさん今度自主演習付き合ってよ」
「あっ……そりゃ勘弁してくださいよコビーさんよお……」

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