「お二方のお部屋は、ダブルとお聞きしておりますが……」
「えぇ~~~!?」
 寒風吹き荒れる離れの宿に、二人の声が響き渡った。――遠征任務でこの島に来たのだが、何かの手違いがあったようだ。
「えっちょっとまってちょっと待ってください。ぼくたちそういうのじゃないんです!」
「あーもうぜってェジジイのせいだ!! クソみてェなミスしやがって!」
「その発言今聞いてたら殺されますよぼくたち」
「うるせェ! とにかくキャンセルだキャンセル! ツインの部屋取り直し頼む!」
 嘆くコビーを尻目に、ヘルメッポがフロントの主人へ詰めよる。しかし宿の主人は申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「そ、それがどこも満席でしてそれにここは冬島なので野宿すると大変なことになるかと」
「お約束ぅ!」
「お約束ですねぇ」
「いや、あの……本当に申し訳ありません。差額分は返金致しますのでどうか……」
 主人の懇願に二人は顔を見合わせる。確かにこの寒さの中野宿するのは厳しいものがあるだろう。それは艦内も例外ではない。それにヘルメッポもコビーも海兵だ。もちろん一般人を凍死させるわけにはいかないだろう。
「と、泊まります……」

 部屋につくなり、ヘルメッポは早々にコビーの方を向いて口を開いた。
「どっちが床かジャンケンしようぜ」
「や、やっぱり……」
「当たりめェだろ! おれはそんな趣味はねェ!」
 そう言い放つヘルメッポに、コビーは少しだけムッとなって口を尖らせる。
「別にぼくはいいと思いますけど」
「お前が良くてもおれは嫌なの!」
 駄々をこねるヘルメッポにしょうがないなあとため息をつき、コビーは渋々了承して手を振り下ろした。
「はあ……わかりましたよ。ジャン、ケン――!」

 静かな夜に、刺すような寒さが突き刺さる。ベッドに居るヘルメッポですら眠れないほどの寒さ。そんな中で床で寝るということになってしまったコビーはもっと辛いであろう。
 じっと身を捩り、コビーの様子を眺める。しかしその視線の先にコビーはいなかった。
 一瞬驚いたが、ああションベンしにいったのかと納得する。冷えるから仕方ねェよなと思いつつも、床で寝かせてしまったのをちょっとだけ悪いなと罪悪感を感じ始めた、その時だった。
 ガチャリと扉が開いてコビーが帰ってきた。真っ暗なので表情は見えないがおそらく寒がっていることだろう。ベッドに寝させられないとはいえ毛布くらい渡すかと思い口を開こうとした。次の瞬間——コビーが唐突にこちらの布団を剥ぎ、もぞもぞとこちらのベッドへと入っていく。
「おい……っ」
 思わず文句を垂れようとしたが、コビーは全く気にすることもなく隣に身体を潜り込ませる。芯まで冷えた指先足先が身体に触れ、思わず「ひゃっ……」とらしくない声が漏れ出てヘルメッポは身を捩らせた。
 そんな声も聞こえないような様子で、コビーはぎゅっと腕にしがみついてくる。悪気なんて一切ないようだ。
「あ、起こしちゃった? やっぱり寒いしベッドに入れてほしいな」
「お前さあ……」
「だめ?」
 コビーの無邪気な一言にヘルメッポは呆れて何も言えなくなってしまった。
「しょうがねェな」
 諦めたように呟くと同時に、コビーは嬉しそうに目を細める。
 そしてそのまましばらく無言で過ごしているうちに、段々と互いの体温が溶け合い心地よい眠気に襲われていった。

「……なーんてこともあったよな。な、大佐殿」
「そうですね……」
 あの事件から二年後、すっかり一人前となった二人は奇しくも同じフロントに立っていた。立派になって地位や立場が変わっても、互いに隣に居る事実は何も変わっていない。
「……で、アンタは今日何をしでかしたんでしたっけ?」
 ヘルメッポの無邪気な問いに、コビーが少し気まずそうに言葉を零す。
「……今日の宿をダブルで取りました」
 コビーの返答を聞いてヘルメッポは思わず声をあげて笑う。
「ひぇっひぇっひぇっ、お前ほんと……まあ床嫌だから寝るけどさァ。……一応聞くけど、わざとじゃねェよな?」
 呆れたようなヘルメッポを見て、コビーは照れ臭そうな表情を浮かべたまま曖昧に微笑んでいた。

 

 

 

*お題無し 1640字*

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