「もっと早く生まれたかったなぁ」

 コビーの言葉に、ヘルメッポは思わずスプーンの手を止めた。今日は待望のカレーの日なのに、妙に浮かない顔のコビーが柄に反射して映る。
「ん? 何だ? ひょっとして誰かに舐められたかァ?」
「いや、そんなことはないけど」
「ふーん」
 相槌だけ打つとヘルメッポは再びカレーのルーを掬って口へと運ぶ。てっきり出世欲に囚われた海兵から年齢を盾に小言でも言われたかと思ったが、そうではないと思うと途端に力が抜けた。
 生まれた妙な沈黙を破るが如く、コビーが照れくさそうに答える。
「その……もっと早く生まれてたら、ヘルメッポさんともっと長い時間一緒に居られたのにって。それだけです」
 そう言うと、コビーは照れ隠しのように勢いよくカレーを食べ始めた。
「なんだそりゃ」
 ヘルメッポは呆れたように眉を顰める。確かに同期扱いとはいえ実年齢は4つも離れていて、ことあることにその事実にハッとすることもある。
 でも階級はそっちのほうが上だし、出会った時期は年齢関係ないし。海軍に限って言えば実力主義社会であまりそういうのは支障ないんじゃないか。とヘルメッポは思うのだが、コビーはそうは思っていないようだ。
 ごくんと喉を鳴らしてカレーを飲み込むと、コビーは神妙な面持ちで顔を上げた。
「あとヘルメッポさんより年上だったら、「年上のプライドが……」なんて言わせずヘルメッポさんをリードすることが出来たのに……」
「ぶっ!!」
 思わず吹き出した。いやそういう話かい。確かに慕い慕われの関係でヘルメッポ自身そういうことを嘆いていたような気がしたが、今はもはやそんなプライドはとうに崩れておりコビーの腕の中に納まっている。
 そんな事実を知ってか知らずかいやに真剣な表情がおかしくて、口元を拭いながらも笑みがこぼれてしまう。
「ひぇっひぇっひぇっ、そりゃあ悪かったな。案外お前も気ィ遣うんだな」
「そんないつも気を遣ってないみたいな言い方」
「それは事実だろ」
 そう言うとヘルメッポはちらりと周囲を見やった。確かに食堂で話す話題ではないことに気が付いたコビーは恐縮して小さく縮こまる。
「しっかしまあ、年上のお前か……」
 ヘルメッポは顎に手を当てながらふと考えた。
 年上で、大佐で、常に前を行く実直な相棒。まあちょっと、ちょっとだけいけ好かない度が上がるかもしれないが、それでもまあ――。
「別にそんな変わんねェと思うけどな。別にお前が10歳上でも、ガキでも」
「そう?」
 そのまま出た言葉にコビーは静かに首を傾げた。その様子を見て、ヘルメッポはニヤリと笑う。
「まあガキだったら付き合わねェかもだけど……大事なのはこっから先、だろ?」

 

 

 

*【コビヘル】「もっと早く生まれたかったなぁ」*

 1086字

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